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"मोए" का नाज़ुक दिल
今週放送されたこれ、遅ればせながら録画で見ました。

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タイトルにもある「萌え」をキーワードに、現代日本のマンガ文化における「オタク」「同人誌」「ボーイズラブ」(これらは必ずしもマンガの分野だけに留まるテーマでは無いとは思いますが、あくまで作中で主な対象となっている範囲として)といったサブカルチャー的諸側面を撮っています。
当初想像していた「外国人の物見遊山」的な浮ついた印象はあまりなく、むしろインド人としては意外なことに、自身もマンガについてオタな部類のバラト・ムールティ ಭರತ ಮೂರ್ತಿ 監督本人が、様々な人々への取材を重ねる中で日本におけるマンガ文化の実態について考察を深めていくというような展開の、わりと落ち着いたトーンの作品でした。

わりと幅広く取材も行われており、同人マンガとの関わり方の面からは一般読者や同人作家、商業誌連載を持つ若手作家から大御所作家や研究者など、また年齢の面でも下は高校生から上は同人黎明期を知るコミケ創設者など。
なかでも、同人誌の印刷を請け負う業者の人にも取材をしている点が興味深かったです。商業誌と比較した場合、同人誌の世界においては作者と読者の距離がきわめて密接で、両者の境界もきわめて曖昧かつ複雑に交錯しているのが特徴だと思われますが、やもするとその存在が見落とされてしまいそうな裏方の印刷業者ですが、同人誌の生産・流通過程の一端を担う重要アクターだということが理解できました。

また、登場する人々の中では、冒頭のコミティア(大規模な同人誌即売会の一つ)の取材で出会った女性同人作家Aさんがとくに印象的でした。若い頃から何度も商業誌に投稿や持ち込みをしていたが、せっかく描いた作品への批評が自分自身を否定されたような気になり創作意欲を失いかけていたところ、ある時それまで全く関わりの無かった同人誌の世界にたまたま作品発表の場を得たことを通じて、「誰かに読んで欲しい」という自身の創作意欲の原点を再確認し作品を描く情熱を取り戻したとのこと。
ご都合主義的なマンガのように「それから才能が開花して成功を収めた」というような希望あふれる結末に行き着いたわけではもちろんなく、いまもマンガ業界の周縁で暗中模索を続ける日々が作家としての彼女の現実に他なりませんが、それでも、居間でテレビを見る夫の傍らで、主婦業の合間に独り原稿用紙へ向かいペンを走らせる彼女の姿からは、描く喜びや情熱が静かに伝わってくるような、けっこー良い映像に仕上がっていたと思います。


・・・ただし、全体的な印象としてはかなり荒削りな部分が目につき、期待ほどにはあまり面白いと感じませんでした。

まず何よりも・・・長過ぎる。テレビ放送を前提に制作されてるので時間尺について選択の余地の無いことだったと思いますが、それにしても109分どころか、90分ないし60分くらいに凝縮したほうが良かったのでは?と思うほどけっこー途中で助長と思える部分が目に付きました。
また、全体の展開や各シーンの内容についても、やや整理し切れていない雑な印象を受けました。おそらく資金や人材の面での制約に加え、取材や編集の段階で膨大な翻訳作業を介するなど諸処の制約がつきまとったせいもあるのかもとは思うので、これはどこまで監督本人の力量に帰するのかはわかりませんが、ともかく、このドキュメンタリーは素材の面白さのわりには編集でかなり損をしている印象です。

とくに、せっかく多くの人物のインタビューが用いられているのに、人物間やシーン間の連関やその順序、切り替わるタイミングなどがあまり有効に機能してない、ないしその意図がわかりずらくてもどかしい雰囲気を所々でかなり漂わしてるように見えました。
例えば、近年の同人誌をめぐる近年の変化について、印刷所の社長さんと「虎の穴」社長の二人がそれぞれ別々の場面で偶然同じような内容について言及してましたが、これとか一連の流れに配置した方がよかったのでは。

また、後半のほうでは、いささか導入が唐突すぎて今ひとつその意図がわかりにくかった場面も。高校のマンガ同好会(正確には「コミックアニメーション部」ですが)を訪れて、部員の女子高生たちが集まってマンガを描きながら楽しくはしゃぐ様子などを取材した場面や、その直後に、公園で輪になっている女子大学生?の一団(のうち一人の話が中心)が、日本の漫画のセリフがアメコミなどと比して少ない点と、「察する」ことを重視する日本人のコミュニケーションに特徴的な型との関連性について論じる場面などがそうでした。もっと説明をいれるべきだったと思います。
後者については、語りの中で言及されてた「ハイコンテクスト」など比較文化論的な見解を提示したかったのだとは思いますが、それほど効果的だったようには見えませんでした。むしろ、彼女の海外留学時の体験に基づく実感部分の話があまり深く掘り下げられないまま、「借り物」というか、中途半端な形の結論へと議論を回収させ無理矢理片付けられてしまったような印象です。

あと、そのほか、中盤で大御所の萩尾望都氏のインタビューもあったのですが、この貴重な?出演がファン(と監督自身も?)を喜ばせる効果があったとは思う反面、展開上あまり効果的に使いきれていない感じがしました。


今回ついでに監督のウェブサイトも発見したのですが、むしろこっちのほうがおもしろかったです。

公開されてた自伝漫画(ここ)によれば、カルナータカ出身の両親のもと1978年にアフマダーバードで生まれ育ち、少年期に父親の転職を機にタミルナードゥ州のコインバトールへ家族で移住し、ヴァロードラーの大学で絵画を学び、それからムンバイで働いたり、コルカタで映画制作を学んだそうです。インド国内をあっちこっち移動する人生のうえ、わりと一筋縄ではいかない経歴の持ち主ですな。
ちなみにあんまり関係無いけど、わりと個人的に好きだった数年前のヒンディー語映画『Bheja Fry भेजा फ़्राई'』、これの監督が映画学校の先輩だった関係で声をかけられ助監督として参加したとのこと。

そんで紆余曲折を経てNHKでの放送用に短編ドキュメンタリー(2007年『ビデオの青春』 原題:The Jasmine of Mysore)を制作したのがキッカケで、今回の連続ドキュメンタリー企画「東京モダン」で『萌えの心臓』を撮ることになったようです。
最初に考えてたタイトルは「Moe Moe is Moe?」だったそうです(ここ)が、もっとシリアスで詩的な感じの「The Fragile Heart of Moé」に変えたそうです。(萩尾望都氏にインタビューできて嬉しかったから『トーマの心臓』に因んでタイトルつけたのだと勝手に思い込んでしまいました・・・、でも実際そうではないようですね。)

あと、このドキュメンタリーの撮影で日本に滞在してた時の体験を、『A Budding Heart』と題した旅行記マンガにしたためて発表する予定だそうです(ここ)。表紙の絵には「心臓の出芽」という何やらオカルト的で恐ろしげな日本語訳タイトルも付記されてますが・・・、機械翻訳でもしたのでしょうか?おそらくこの「Budding」は「萌え」の翻訳だと思うけど、例えば「萌ゆる心」とかもう少しマシな訳語を誰か教えてあげ・・・・・ないほうがこの場合むしろ面白そうですね。

ほかにも、山松ゆうきち氏がヒンディー語でマンガを出版したことにかなり感銘を受け、作者にも直接会ったことがあるようです。しかも、その際に本人から直接許可を得たとのことで、『साइकिल रिक्शे वालों की दुकान』をウェブに公開してあったりも(ここ)。
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by ek-japani | 2010-01-29 22:21 | テレビ